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森のバッハ - カルミニョーラが弾くソナタとパルティータ

森のバッハ - カルミニョーラが弾くソナタとパルティータ

CD◎ジュリアーノ・カルミニョーラ(vn) J.S.バッハ:ソナタとパルティータ BWV.1001-1006 (Deutsche Grammophon, 2018)
  • 青澤隆明
    2021.02.12
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 ぼくにとって、ジュリアーノ・カルミニョーラを聴くことはいつも喜びだ。というか、単純にうれしくなる。古い窓を開け放って、好きなだけ遠くに飛んで行けるような気持ち。実際にはそうはできないとしても、澄みきった空気のなかで背を伸ばしているような気がする。

 ヴァイオリンという楽器にぼくが夢みる多くのことを、カルミニョーラは自然と叶えてくれる。もちろん、これほどの名手だって、いつまでも若いわけではないが、といって若々しさや清新さが彼の響きや表現から離れることはない。

 カルミニョーラの弾くバッハを聴きたくなって、ソナタとパルティータのCDを手にした。2018年2月にイタリアで録音された2枚組で、1枚目がソナタ、2枚目がパルティータで、それぞれ1番、2番、3番と順に弾かれる。すっきりした簡明な構成とも言えるし、ソナタとパルティータを交互に織りなさなくとも存分に多様性は抽き出せるという自負もきっとあるのだろう。たしかハイフェッツのレコードがおなじオーダーだった。短調曲が多いなかで、第3番はハ長調ソナタとホ長調パルティータだから、この組みかただとアルバムはいずれも長調で輝かしく結ばれることになる。

 カルミニョーラのバッハを聴いていると、というか、その響きに触れると、たちまち気持ちが澄んでくる。風を聴く、みたいなことがほんとうに音楽になるなら、きっとこういう感じなのかもしれないな。それにしては、きりっとして、いきいきと鋭くはあるけれど。

 森林のなかでグァルネリを手にしたアルバム・カヴァーというのは、いかにもすぎる気はするが、カルミニョーラだとそれも絵になり、しっくりくる。空気は湿っぽくなく、どこか神妙に引き締まっている。自在に呼び交わす声が響いてくる。
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