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はじまりのブラームス。―ケント・ナガノ指揮ハンブルク・フィルを聴いて

はじまりのブラームス。―ケント・ナガノ指揮ハンブルク・フィルを聴いて

ケント・ナガノがハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して、ブラームスの交響曲第1番ハ短調を雄壮に聴かせた。ヴィトマンの「Con Brio」、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番を辻井伸行と聴かせた後、ハンブルク生まれの大家のはじまりの交響曲を、名門独特の音色を豪放に活かし、広大な音楽として堂々と響かせた(2019年11月5日、文京シビックホール)。
  • 青澤隆明
    2019.11.27
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 さて、ここで最初になにを書こうかと考えていたら、まっさきに浮んだのが、ブラームスの交響曲第1番のことだった。ケント・ナガノがハンブルク・フィルを指揮するのを聴いていて、「ああ、これはほんとうにブラームスの第1番だ、はじまりの音楽なんだ」と熱く感じ入ったのを思い出すからだ。

 17世紀以来の伝統を誇る名門を、ケント・ナガノが率いて4年目のシーズン。待望の来日公演に臨み、彼らはこの日、ハンブルク生まれのブラームスの交響曲第1番ハ短調を、ぼくは聴けなかったがもうひとつはマーラーの交響曲第5番嬰ハ短調をメインに置く、いかにもハンブルクの誇りに相応しい2つのプログラムを組んできた。

 ハンブルク・フィルの音は、武骨なほどに剛直だ。飾らずに素朴で、これがまさしくハンブルク固有の響きなのだろう、と思わせる自信に漲っていた。音楽もまた質実剛健というべき確かさで、そこから頑丈で豪放な表情を広げながら、ケント・ナガノの指揮は雄大なスケールの音楽を堂々と響かせた。濃やかさをもちながら、全体の生きた流れを引き出す明敏な指揮で、大きな山が自然と動き出すように音楽を導いていった。かなり緻密な準備を重ねてのことだろうが、コンサート本番の燃焼のなかで、オーケストラはそうした緊張から随所で開放されたかのように自発的に鳴り響いた。広大な空間を満たす、雄渾なブラームスだった。

 そして、ここにいたって聴きては、イェルク・ヴィトマンがベートーヴェンの引用を知的に巧緻に組み上げた「Con Brio」から、ベートーヴェンの変ホ長調協奏曲第5番(ピアノ独奏は辻井伸行)を経たさきに、ブラームス渾身のハ短調交響曲が堂々とハ長調を謳歌していくまでの綿密な流れが、力強く明朗に体現されていたことを知るのだ。とくに終楽章でハ長調の旋律がまさしく“Allegro non troppo, ma con brio”で歌い出され、そこから結びにいたるまでの悠然とした流れに身を委ねているうちに。これがまさしくブラームスの“con brio”だ、と思った。それは、雄壮にして堂々たる、はじまりの音楽だった。
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