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F1 for the Common Man  市民生活に必要な音楽 - 大野和士指揮都響の再開

F1 for the Common Man 市民生活に必要な音楽 - 大野和士指揮都響の再開

オーケストラがそれぞれに演奏会を模索するなか、音楽監督とのコンビネーションで入念に臨んだ都響の再開初日を聴いた。◎大野和士指揮 東京都交響楽団 都響スペシャル2020 (2020年7月12日、サントリーホール)
  • 青澤隆明
    2020.07.24
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 東京都交響楽団がサントリーホールでの「都響スペシャル」で聴衆の前に戻ってきた。指揮は音楽監督の大野和士、コンサートマスターは矢部達哉で、この苦境においてもしっかりと重責を果たした。休憩なし一時間ほどの演奏会で、再開そして聴衆との再会を祝すプログラムは、F1・F1のシフト。金管楽器のファンファーレと、2管編成の交響曲第1番を交互に織りなし、コープランド、ベートーヴェン、デュカス、プロコフィエフと、コンパクトななかに多様性を織り込んだ。

 達者な金管陣を擁するうえに、2つのファンファーレもしっかりと大野が指揮して、開放感はもちつつも、野放図ではなく、ていねいで緊密な音響造型を聴かせた。コープランドは題名のとおり「ふつうの人(一般庶民)のためのファンファーレ」であって、その意味でもまさに再開の祝砲にふさわしく、音楽がふつうの人々のために必要不可欠なものであるとの意思表明ともとれる。それも、演奏がパリっとしているからこそで、結局のところプログラミングを確かにするのは、まっとうな演奏でしかないというのを地で行ったかたちだ。

 続いて、生誕250周年記念となるベートーヴェンの交響曲からハ長調の第1番。12型の編成で、奏者間に適度な距離がとられてはいるが、音楽的なアンサンブルの要件を踏まえていることが、全体のバランスにも、演奏の充実にも肝要だ。6月の試演会で科学的・医学的検証を行ったうえでの取り組みであることも、オーケストラの奏者たちが安心感と自信をもって演奏に集中できることに繋がったのだろう。なにごとも一歩一歩の着実な積み上げである。

 後半は1910年代の2作。デュカスの舞踊詩《ラ・ペリ》の「ファンファーレ」が短いながらも引き締まった表情で鳴り響く。それから、プロコフィエフの第1番「古典交響曲」が、擬古典的な簡潔さと近代的なひねりを利かせて、多様な表情を快活に導いていった。こうして、アンサンブルの生彩と、音楽監督の指揮で大事な舞台に臨んだ緊密さが、きりっとしたプログラムに実った。

 ファンファーレと交響曲第1番が2曲ずつ。しかも、交響曲はハ長調からニ長調。はじまりにふさわしい音楽的宣言が明朗に響いたことになる。で、ぼくはこういうことを言うのも聞くのも元来あまり得意ではないのだが、それでも拍手を重ねる心のうちには、1人の都民としてもこのオーケストラがあることを誇らしく思う気持ちがあった。
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