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エベーヌ四重奏団 “play JAZZ”

エベーヌ四重奏団 “play JAZZ”

クァルテットの饗宴2022 エベーヌ弦楽四重奏団 (2022年6月17日 紀尾井ホール)を聴いて(3)
  • 青澤隆明
    2022.08.02
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 エベーヌ四重奏団を、ぼくはずっと当代屈指のバンドのひとつとみてきた。ジャズやロックのナンバーを演奏するときも、激しさはあっても粗さはなく、それはたぶん現メンバーになってさらに徹底してきたのかもしれない。そのように優美さのうちに収斂したなかでも、十分に過激さや多様性は表出し得る、ということを彼らは示すのである。

 紀尾井ホールでの《CLASSIC + JAZZ》のプログラム後半。この《JAZZ》のセレクションでは、より現代に近づくが、ショスタコーヴィチでエレガンスを体現したエベーヌ四重奏団が、ここでジャズのパッションや抵抗、ワイルドさを巧みに手なずけていることは明らかだ。《CLASSIC》で聴かせた緊密なユニットが、多様な語法をもって、さらに開かれ、拡張された自由の感覚がある。つまりは20世紀アメリカの旅だ。

 しかし、やはりフランスのジャズの、シルクな洗練が加わっている。それと同時に、4人の性格や役割が、さらにくっきりと前に出てくるのも愉しい。弦楽四重奏だがここではドラムやベースも効果的に演奏することが肝要だから、当然のことだ。抜群の一体感と呼吸はそのままに、個々のプレイヤーの顔もまた、より率直に押し出されてくる。

 セットが始まると、たちまちに鳴り渡ったのはあのトゥーツの、たまらなく優しいハーモニカの響き。曲はトゥーツ・シールマンスの「ブルーゼット」だが、エベーヌの弦の響きもやわらかく泡立っていて、ぐっとくる。他にはちょっとグラッペリくらいしか思い出せないくらいの優美さなのだ。

 チャーリー・ミンガス、マイルス・デイヴィス、セロニアス・モンク、ウェイン・ショーターなどバップの鉄人たちがひしめくなか、ケニー・カークランドの美しいバラード「ディエンダ」、ピー・ウィー・エリスのゴキゲンな「チキン」を織りなし、しめはアストル・ピアソラの「リベルタンゴ」でラテンに着火。クールに差し挟まれるMCも気が利いていて、ラウンジの雰囲気がいい感じに出ている。アレンジも彼ら自身が手がけているが、うち3篇は新編曲で、このステージで初披露とのこと。アンコールに、エデン・アーベの「ネイチャー・ボーイ」。

 どのチューンでも、エレガンスと余裕を備えつつ、4人のキャラクターや資質が楽しく絡み合う様子がまざまざと伝わってきた。顔を見合って、くすくす微笑んでいるようなところもいい。つまりは、アンサンブルと対話の喜びだ。なによりも、知的な興味だけではなく、ひとつひとつの曲が好きで、いっしょに育ってきたような心がある。それが、同時代の人間にはうれしい。
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