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悲愴  月光  熱情 -辻井伸行 サロンコンサート

悲愴 月光 熱情 -辻井伸行 サロンコンサート

ひさしぶりのコンサートはやはりピアノ・リサイタル。辻井伸行 オンライン・サロンコンサートの第4夜を収録現場で聴いた。
  • 青澤隆明
    2020.06.28
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 ひさびさにコンサートに行った。辻井伸行のサロンコンサート、オンライン配信されるものを、演奏会場のムジカーザで生で聴いた。いまのところ足踏みさせられているがベートーヴェン・イヤーということもあって、3つの人気ソナタを集めたリサイタル・プログラム。《悲愴》《月光》《熱情》をまとめてコンサートで聴くのは、改めて思いかえしてみると、ぼくはずいぶんとひさしぶりだ。こういう機会でもなければ、進んで行くこともなかったかもしれない。

 レコードでは定番ともされる名作ソナタ3曲の詰め合わせだけれど、生でまとめて聴くとなると、やはり相応に重たい。ぜんぶ短調ソナタだし。《熱情》のまえに《ワルトシュタイン》が入ればなぁ、と個人的には思ったけど、それはフル・コンサート仕様でのお楽しみということになるのだろう。

 この3つのソナタをまとめてコンサートで弾くのは今回が初めて、とピアニスト自身がアンコールのまえに言っていたが、6月の毎週金曜に名曲プログラムで続けたオンライン・サロンコンサートのしめくくりに、さりげなくこうした挑戦を入れてくるのはいいな。大ホールではなく、すぐ目のまえ、しかも同じ床面で聴いているので、演奏家の挑みも息づかいもまた、直接に生々しく伝わってくる。

 辻井伸行はピアノ演奏にまっすぐに打ち込み、余計な考えや気持ちで曲を汚そうとはしないので、こちらもストレートにそれを追っていけばいい。全曲を通じて、表現の自由や挑戦ということよりも、ベートーヴェンの感情的な苦しみのようなものが自ずと浮き上がってくる。それも大書されるのではなく、曲をなぞっているうちに、聴き手の心がそういうかたちになっている。

 そういうベートーヴェンで満腹になったところに、アンコールで演奏されたのは、辻井伸行の自作。この時節に作曲された小品で、medici.tv JAPANで5月半ばから公開されている「笑顔で会える日のために」。プログラム本篇とさほどは変わらず、感傷に流れることなく、明朗さを保って、大らかに弾かれていった。でもやっぱり、この曲を弾いてるとき、いい顔をしていたよ。
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