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ハル・ウィルナーのいない春 

ハル・ウィルナーのいない春 

ハル・ウィルナーが亡くなってしまった。 CD◎三宅 純『星ノ玉ノ緒 ENTROPATHY』(Sony Records)
  • 青澤隆明
    2020.04.22
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 ハル・ウィルナーが亡くなった。64歳の誕生日を迎えたばかりで。新型コロナウイルス感染の症状が出ていたと伝えられる。4月に生まれて、4月に亡くなった。

 何日か前にふと目にした、トム・ウェイツ&キャサリン・ブレナンのポストがつよく心に響いた。そう、ぼくがハル・ウィルナーというプロデューサー/スーパーヴァイザーの名を最初に知ったのは、クルト・ワイルのトリビュート盤で、彼の1980年代半ばの仕事だった。「September Song」をルー・リードが、「What Keeps Mankind Alive?」をトム・ウェイツがカヴァーしていた。トム・ウェイツは、続くウォルト・ディズニー名作へのトリビュート盤では「ハイ・ホー」をやった。クルト・ワイルのトリビュートは映画もつくられて、エルヴィス・コステロがブロドスキー弦楽四重奏団と参加したりしている。

 ジャンルがどうということではなく、とにかく面白いことをする人で、あやしく巨大な音楽胃袋の持ち主だった。でも、わかりやすい。奇妙なタッチでも、人々の心を離れなかった。

 アレン・ギンズバーグやウィリアム・バロウズのスポークン・ワーズのアルバムもあった。『Lion for Real』と『Dead City Radio』。後にはルー・リードの21世紀の仕事、『Ecstacy』、『The Raven』、そしてメタリカとの最後作『lulu』も手がけた。

 さきほど、整理されないままの乱雑なCD棚を眺めていて、三宅純の『星ノ玉ノ緒 ENTROPATHY』を手にとった。これは三宅純とハル・ウィルナーの共同プロデュース。1993年のアルバムだった。

 異才どうしの鮮やかにして玄妙な出会いである。ハル・ウィルナーは、これまで出会った卓抜な個性の「すべてを一人で持ち合わせた人物」と三宅純を讃え、これらの多彩な作品を「聴き手を超現実的音楽史へと誘いつつ、ひとつの作品として強くまとめられたマジカル・オーディオ・ムーヴィー」と称していた。

 いま、この不可思議な音楽をかけて、目くるめく異国情緒に幻惑されているさなかである。なんという旅だ。いかがわしく、妖しげで。しかも、ユーモラスで、ハーモニアスだ。

 愛情と狂気、幻想や旅愁、異種勾配の調和に満ちた世界--。
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