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天国と地獄の間-ダンテ、リストから、ルー・リード

天国と地獄の間-ダンテ、リストから、ルー・リード

朝はベートーヴェン、午後から夕方にかけてはリストを聴いて過ごした。 CD◎Joseph Moog(pf) "LISZT - Between Heaven & Hell" (onyx) ヨゼフ・モーグ(Pf)  リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調、2つの伝説、ダンテを読んで、執拗なチャルダーシュ
  • 青澤隆明
    2020.04.04
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 続けてはリスト。午後から夕刻にかけて聴いていた。しかも、天国と地獄の間、というタイトルのアルバム。ここに収録された「ダンテを読んで」というのは、ヴィクトル・ユーゴーの詩からきているが、もちろん『神曲』と関係がある。ドイツの俊英ヨゼフ・モーグのピアノはだけど、音がすっきりとしていて澄んでいるから、垂直な見晴らしが保たれて、いつも上方をみている感じがある。下をみても、まっすぐ。そういう感じが、天国と地獄と間、というのはつまり煉獄なのだろうけれど、そこでもつねに消えることはない。で、けっこうかっこいいタイトルというか、かっこつけたタイトルではあるけれど、“Between Heaven & Hell”というのは、まあ、ロマン派の人生かくあるべし、といった風情。

 そのタイトルをみて、ぼくがすぐに思い出したのは、もちろんルー・リードの“Between thought and expression”というライン。彼の初めての詩集のタイトルにもなって、その本はウォルト・ディズニーから出た(いかしてるだろ、とルーは言った)。もともとはヴェルヴェット・アンダーグラウンドの “Some Kinda Love”という歌のリリックで、続きがある。“Lies a lifetime”というものだ。素晴らしいだろ。語感がじつにルー・リードっぽくていい。とぼくはずっと思っていて、そういえばと、リストに重ねていま思い出したのが、たしか2001年の秋の夜のこと。ヴァレリー・アファナシエフと雑談をしていて、なにかの拍子にこのフレーズを口にすると、誰の詩だ?と彼が深刻な顔でたずねてきた。ルー・リードだよ。ダンテの『神曲』が大好きで、リストのソナタも晩年作も得意とする、かの思索するピアニストにして、まだまだ世界は広いということだ。

 思考と表現の間に、人生はある。天国と地獄の間、それよりもまず先に。日々の暮らし。
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