春のドヴォルジャーク -《東京・春・音楽祭2021》のTrio Accord

春のドヴォルジャーク -《東京・春・音楽祭2021》のTrio Accord

《東京・春・音楽祭2021》Trio Accord――白井 圭(ヴァイオリン)、門脇大樹(チェロ)、津田裕也(ピアノ)(2021年3月29日、上野学園 石橋メモリアルホール) ◇ドヴォルジャーク:ピアノ三重奏曲 第1番 変ロ長調 op.21、 マルティヌー:ピアノ三重奏曲 第2番 二短調 H.327、ドヴォルジャーク:ピアノ三重奏曲 第4番 ホ短調 op.90 《ドゥムキー》
  • 青澤隆明
    2021.04.02
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 コンサートもわりと通っていて、3月なんて連日のように聴いていたのに、なんとなくここに書きそびれているうちに、もう4月。よくないよね、と思って、ちょっとずつ巻き戻しつつ、まずは先の月曜日の《東京・春・音楽祭2021》のことから。

 Trio Accord(トリオ・アコード)は毎春恒例だが、昨年ベートーヴェンのピアノ・トリオ全曲を敢行したのに続いて、今年はボヘミアに目を向けて、ドヴォルジャークとマルティヌーに臨んだ。ヴァイオリンの白井圭、チェロの門脇大樹、ピアノの津田裕也という、藝大の同級生トリオで、年代はもちろん、なんというか背丈も近い。

 ドヴォルジャークは今年が生誕180周年。ピアノ三重奏曲は現存するもので4作あるが、その始まりと終わり、第1番変ロ長調op.21と、有名な「ドゥムキー」第4番ホ短調op.90が採り上げられた。その間に、マルティヌーが1950年にアメリカで書いたピアノ三重奏曲第2番ニ短調 H.327をはさむプログラム構成。

 先ほど3人のことを「背丈も近い」と言ったのは音楽的なことでもあって、ていねいな構築を心がけ、トリオとしてバランスのよい造型を器用に保っている。ドヴォルジャークの第1番からそうで、きちんと組み上げられている。マルティヌーも、きりっとタイトに造型された。もっと時代に寄せて、色濃く表出されてもよかったのではないか。と思っていたら、後半の《ドゥムキー》では、チェロもたっぷり旋律をうたって、全体にずいぶん面が広がり、大きな音楽になっていった。作品の性格もあるけれど、ピアノ・トリオならではの空間の広さが活かされて、ぐっと表現の生彩も伸びやかに増した。アンコールには「わが母の教え給いし歌」もたっぷりと歌われて、豊かな余韻を残した。

 さて、《東京・春・音楽祭2021》は3月20日に最初のコンサートが開かれて、これでちょうど10日目。来日演奏家を主とした公演は中止を余儀なくされたが、例によってこまやかなプログラミングで、着実に開催されている。とはいえ、状況をみつつだから、チケット発売も大幅に遅れて、トリオ・アコードのこの公演は3月14日が発売だったはず。上野学園石橋メモリアルホールは市松模様の配席だったとはいえ、わずか2週間ほどで多くの聴衆が集まり、熱心に聴き入った。

 トリオ・アコードの出演が定番ということを鑑みても、この凝った曲目で、駅から少し歩く会場で、よくこれほどの集客が短期にできたものだと思うと、《東京・春・音楽祭》の定着と地力に改めて感服する。音楽祭の綿密な姿勢に共感しつつ、心ある演奏家が集い、魅力的なプログラムを真摯に重ねてきた成果が、なにより聴衆を惹きつけるのだろう。《東京春祭2021》のリアル開催は4月23日まで。まだまだ聴きたいものが、たくさんある。
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