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ひねりを利かせつつ、愚直に。- 久石譲とベートーヴェン、新日本フィルとともに

ひねりを利かせつつ、愚直に。- 久石譲とベートーヴェン、新日本フィルとともに

《フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2020》新日本フィルハーモニー交響楽団 指揮:久石 譲 ヴァイオリン:豊嶋泰嗣、久石 譲:Encounter for String Orchestra、ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61、 ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 op.92 (2020年8月4日、ミューザ川崎シンフォニーホール)
  • 青澤隆明
    2020.09.13
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 新日本フィルハーモニー交響楽団は、折しも9月からComposer in Residence and Music Partnerに就任することが先月末に発表されたばかりの久石譲と、《フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2020》に登場。久石自作の「Encounter」の弦楽オーケストラ版に、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、交響曲第7番というプログラムで、作曲に加えて指揮でも活躍を広げるパートナーとの新たな出立に備えるかたちとなった。コンサートマスターは崔文洙、弦の編成は12-10-8-7-6で対向配置をとった。

 オープニングの「Encounter」は、いわば久石流のミニマル・ミュージック。モティーフの反復に変拍子も多用して、演奏はたいへんそうに思えるが、作曲者と関係も長いNJPはいくらか乱れつつも、細やかな表情づけに器用なところをみせた。

 ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲では、ソロ・コンサートマスターの豊嶋泰嗣が独奏を務めて、オーケストラとしっくりとした信頼を聴かせていった。カデンツァに入っても、随所に聴きなれない新鮮さがあり、ピアノ協奏曲用編曲を活用しているが、それにしても聴きなれた先例のある演奏ではない。久石がさらに編曲を加えたものか、どうやらピアノ的な和音の響きや運動感を活かそうと、ソリストも果敢に格闘している模様で、これはよりベートーヴェンのピアノ版カンデンツァに忠実な姿勢をとったのだろうとわかってくる。

 コンセプトはある意味正攻法でも、異なる楽器の表現を言語化するのは難儀そうだが、豊嶋も楽譜を見つつ真剣に弾き通していった。結果として、カデンツァも華麗な自由の披露というよりは、なにかの修行みたいな趣きは帯びてくるものの、興味をそそる取り組みとなった。ティンパニが入るくだりで、首席チェロも加わってくるなどの工夫も凝らされている。慌てて着席したのでピックアップし忘れていたが、休憩時にプログラムをとってみると「カデンツァ:ベートーヴェン/久石譲」と明記してあった。

 交響曲第7番は、快速のテンポで、弾力をもったリズムを小気味よく利かせた演奏。前半2楽章をアタッカで繋げたほか、リピートは活かしつつ、全体に前がかりに進めて、終楽章で加熱する。小編成のうえ、スマートな表現をとっているが、オーケストラは好調らしく力強さもある。前半の創意に比べると、演奏の快楽をストレートに追った感もあり、小ぶりだが気持ちのいい幕切れとなった。

 作編曲もそうだが、ひねりを入れるけれど本質的に愚直なのが、久石譲の持ち味ではないか、とぼくは思っている。もちろん、いい意味で。それが今日、作曲、編曲、指揮すべてを通じて表れていた。これから新日本フィルと、どのようなチャレンジをくり出していくのか。長いカーテンコールの後には、すでに着替えた久石と、崔、豊嶋が肩を組んで拍手に応える場面もあった。
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