真昼の一大事、ランチタイムのベートーヴェン。-トッパンホールにひさびさに 

真昼の一大事、ランチタイムのベートーヴェン。-トッパンホールにひさびさに 

◎ランチタイム コンサート Vol.103〈ベートーヴェンに挑む 1〉大塚百合菜(ヴァイオリン)& 原嶋 唯(ピアノ)(2020年7月22日、トッパンホール)
  • 青澤隆明
    2020.07.28
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 緊急事態宣言が解除されてから、ここまでオーケストラやマネジメントが主催するコンサートをいくつか聴いてきたが、ホールの主催公演も少しずつはじまっている。ひさびさにトッパンホールを訪ねたが、ぼくにとってはニューイヤーコンサートを聴いて以来の半年ぶり。ホールとしては2月末以来となる再開公演は3月から延期された、もともとハーフ・プログラムのランチタイムコンサート。若手が〈ベートーヴェンに挑む〉シリーズの初回にあたる。

 改めて言うまでもなく、トッパンホールはヨーロッパの名手を多く招いてきたが、もうひとつ日本人演奏家に関しては、主として若手に成長の場を提供するスタンスを掲げている。そのエントランスとなるのが、チェンバー・オーケストラと、このランチタイムコンサート。べつに記念年にこだわらずとも、ふだんからベートーヴェンを重視してきたこのホールが今回ヴァイオリンとピアノのデュオ・ソナタを託したのは、ヴァイオリンの大塚百合菜とピアノの原嶋唯。

 曲は第3番変ホ長調op.12-3と第7番ハ短調op.30-2という、調性的にみてもベートーヴェンが力を籠めた2作のデュオ・ソナタ。大塚百合菜と原嶋唯のデュオは、作品に正面から向き合って、ていねいな演奏を聴かせていった。きちんと準備してきたことがよくわかるし、どちらかというと名手が手練れで弾くのを聴かされる機会も多いので、その意味では瑞々しさが真率に感じられた。春先以来のモティベーションを保つことも、ただでさえこの曲目での晴れ舞台であることも、さらにはソーシャル・ディスタンシングの配慮から客席も疎らという特異な環境もあってだろう、弾き手の緊張がそのまま伝わってきてしまうところもあったが、それでもできることをきちんとしようとする折り目正しさがよかった。

 聴き手としても、こんなにゆったり、というか、がらんとしたコンサートはめずらしく、このホールの主催公演だとほぼ満席ばかりだから、まず体感できない。フルで408席のところ、ざっと100人に満たないくらいだったろうか。それだけ音はよく伸びるし、ふだんから親密な響きであるうえに、生々しさもくっきりと増す。そうしたなかで、真面目な取り組みをまっすぐに聴かせてもらうと、こちらも背筋が伸びるというのか、自ずと清々しい気持ちになってくる。また、ここで聴けてうれしい、という気持ちも確かにある。

 もともと予定されていた意欲的なラインナップは、昨今の状況を受け、秋からの20周年シーズンに入ってもなかなか実現は難しそうにみえるが、こうして若手にとっての道場的な役割が保たれれば、トッパンホールの主催公演はもうひとつの柱の意義をしっかりと将来に繋ぐことになるだろう。
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