Giro d'Italia 開幕、カルミニョーラとブルネロの二重協奏曲 "Sonar in Ottava"  (青澤隆明)

Giro d'Italia 開幕、カルミニョーラとブルネロの二重協奏曲 "Sonar in Ottava" (青澤隆明)

ジロ・デ・イタリアがいつもの季節に開幕した。CD◎"Bach | Vivaldi, Sonar in Ottava-Double Concertos for violin and violoncello piccolo" Guiliano Carmignola(vn), Mario Brunello(violoncello piccolo), Riccardo Doni (cem&cond), Accademia dell'Annunciata (ARCANA, 2020)
  • 青澤隆明
    2021.05.09
  • お気に入り
 ジロ・デ・イタリアがはじまった。いつもの季節にかえってきたということだ。きのう5月8日が最初のステージで、トリノからのスタート。これから三週間の長丁場となる。新城幸也選手も出ていて、それも誇らしい。

 最初のステージは個人タイムトライアルで、INEOSのフィリッポ・ガンナが2年連続でトップタイムをたたき出した。平均最高速度は史上3番目ということで、昨年のガンナが2番だという。まさにマシーンである。

 5月6日はこれに先立つオープニング・セレモニーで、出場チームのプレゼンテーションがあった。トリノのヴァレンティーノ城を舞台にして、イタリアらしい厳かな雰囲気のなかで進む。最初に『神曲』の朗読が流れるのは、ダンテの没後700年の記念を祝してだという。サイクル・ロードレースは人間の勇気だけでなく、自然と歴史の旅でもある。

 プレゼンテーションには手狭な特設舞台ながら、チェンバー・オーケストラも用意されていた。幕開けに演奏されたのはエンニオ・モリコーネの、たしか“C’era una Volta il West”。それなのに、23チーム、184人の全選手が続々と登壇する入場の音楽は、ヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」や「パナマ」にはじまるメタル・ヒットなのがいつもっぽいところ。選手たちの送り出しには毎回、オーケストラが短く生演奏をするという趣向だ。ぼうっと眺めていたぼくの耳には「マエストロ何某が指揮するアンサンブル・シンフォニー・オーケストラ」と英語ナレーションが入ってきて、頭に地名など言っていたのを聞き落としたかもしれないけれど、なんというか、ずいぶんな名前だなと思った。Amore Infinito。

 さて、ダンテだからといって、レースのあとにリストを聴くのもちょっと重たいので、イタリアへの旅を気どって、ふと手にしたのが“Sonar in Ottava”というアルバム。バッハとヴィヴァルディの二重協奏曲集だが、いい名前をつけたものだ。さすがマリオ・ブルネロとジュリアーノ・カルミョーラである。若き日からの音楽仲間の二人が、いまこうしてオクターヴを奏でる、というわけだ。ジロをはじめグランツールのメンバーはいま各チーム8人だから、そんな含みもあって、ちょうどいいと思った次第。なんたって、イタリアきっての名手ふたり、ダブル・エースの布陣である。もちろん、ふたりが合わされば、オクターヴもずいぶんと個性的なものだ。

 ブルネロは近年愛奏するチェロ・ピッコロを弾いて、ヴィヴァルディとバッハの2つのヴァイオリンのための、そしてバッハの2台チェンバロのためのコンチェルトに臨んでいる。ヴァイオリン2挺とも違うし、チェロ・ピッコロで弾くと光彩や陰翳に微妙な感じが出る。それがまたユニークで、二人の名手の独奏の声の流動的な絡み合いに、いっそう柔らかな響きの個性を運んでいる。

 もうひとつ面白いのが、バッハの弟子で、晩年の変奏曲の愛称ともなったヨハン・ゴットリーブ・ゴルトベルクの弦楽合奏のソナタをまんなかに挿んでいるところ。イタリアのソナタの様式で、繊細に対位法的筆致が活かされた演奏が聴ける。ヴィヴァルディ-バッハ-ゴルトベルク-バッハ-ヴィヴァルディと並ぶシンメトリーを、イタリアの誉れに沿って、きれいに構成してもいる。
1 件
TOP