ヴェルビエ音楽祭特集へ
ベルリン、ニューヨーク、東京 -There is no time, Lou Said

ベルリン、ニューヨーク、東京 -There is no time, Lou Said

都市は音楽を生む、言葉を育てる。音楽は都市を息づかせる、ほんとうのことを言う。いつの時代も、この瞬間も。 CD◎ Lou Reed "New York" (Sire)
  • 青澤隆明
    2020.04.06
  • お気に入り
 「シェイクスピアにロンドンが、ジョイスにダブリンがあったように、おれにはニューヨークがある」。たしかそんなふうに、ルー・リードはうそぶいていた。『ニューヨーク』というアルバムという紛れもない自信作にふさわしく。

 高校を出たばかりのあてもないぼくは、年明けにリリースされたこのアルバムを、なんどもなんどもなんどもなんども聴いていた。そうして、それから、なんどもなんどもなんどもなんども春がめぐった。数えればもう30年が経って、今年で31年目になる。だけど、いつまでも堂々めぐりだ。そのぶんだけ、CDもくるくると回り続けるということか。

 いままでルー・リードでいちばんたくさん聴いたアルバムは『ニューヨーク』だ。『ニューヨーク』からが、ぼくにはリアル・アイムのルー・リードだったが、それだけのことではない。いちばん好きな『ブルー・マスク』よりも、『トランスフォーマー』や『ベルリン』よりも、ずっと頻繁に聴いてきた。『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』もよりもだ。

 ぼくが初めて観たルー・リードのライヴも、ニューヨークのツアーのときだ。そのままのバンドで、そのままに出てきた。ステージに現れた生身のルー・リードは大きかった。「おれたちは『ニューヨーク』アルバムを始めから終わりまで曲順どおりに演奏する」とひとこと宣言すると、“ROMEO HAD JULIETTE”のギターを、さっさとマイク・ラスケと弾き出した。それから一時間ほど、『ニューヨーク』がラフに蠢いた。

 いま、ニューヨークにルー・リードはいない。この世のどこかにいるなら、それはニューヨークに違いないのだが、もう7年も留守のままだ。『ニューヨーク』の3年後の『Magic & Loss』では親友の喪失を歌ったが、それはぼくたちが彼を思う気持ちにも繋がっている。だが、ヴィム・ヴェンダースが正しければ、彼は天使なので、きっとどこかにはいる。新曲を書き、ぶっきらぼうにギターを弾いて歌い出すはずだ。ニューヨークで。そこは彼が暮らし、描き、最後まで愛した街なのである。

 『ニューヨーク』アルバムで、いちばんストレートに突き抜けているのは“THERE IS NO TIME”というロック・チューンだ。前がかったビートに、乱暴なギターも必殺のうねりを利かせている。ルー・リードはこの曲でたたみかけるように、だけど例によってぶつぶつと唱える。Actionの意味もfutureの色調も時代で違うが、結局はやはりルー・リードの言うとおりだ。“This is no time for Phony Rhetoric This is no time for Political Speech This is a time for Action because the future’s Within Reach This is the time”
1 件
TOP