Bad Boys on Brahms- ケラスとタローのブラームス -アレクサンドル・タローの影を追って(4)

Bad Boys on Brahms- ケラスとタローのブラームス -アレクサンドル・タローの影を追って(4)

ジャン=ギアン・ケラス (vc)& アレクサンドル・タロー(pf) ドビュッシー:チェロとピアノのためのソナタ、ブラームス:チェロとピアノのためのソナタ第2番ヘ長調op.99、同第1番ホ短調op.38、ブラームス/ケラス&タロー編:ハンガリー舞曲集より(2019年11月27日、王子ホール)
  • 青澤隆明
    2019.12.30
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 デュオの新作CD「Complices」はジャン=ギアン・ケラスの所属するHarmonia Mundiからリリースされたが、これに先立つ2017年のデュオ・アルバム、ブラームスのソナタとハンガリー舞曲集は、アレクサンドル・タロー所属のEratoレーベルから出されていた。こういう相互協力は、聴き手にも愉しみを運ぶ。
 
 さて、この11月に来日したケラスとタローのデュオが、そのブラームスで大暴れ。というより、タローのピアノがワイルドに攻め立て、ケラスのチェロがうまく合わせつつ、それを導いていくような感覚。振り回されているようにみえて、じつは見事に乗りこなしているのだから、あっぱれだ。  
 
 このふたりのデュオは以前から、ピアノが主導的というか、支配的な側面が大きかったが、そこにはタローの神経質ともいえる過敏さに、ケラスが柔軟に応えていくという性格もつよかった。それが今回のように、タローの果敢さが大胆に増長されると、ケラスがそれをまるめこむように全体をまとめていく力もまた、遺憾なく発揮されてくる。スリリングなのだが、そのあたり確かで危なげない、絶妙の呼吸なのである。
 
 もうひとつ、そのタローのピアノだが、以前の彼の特徴でもあった線の細い鋭敏さがずんぶんと明るく、大らかに、いい意味でも悪い意味でも荒っぽいところが出てきて、それが内的に強まったパッションとともに、どこかラテン的な明朗さを外向的に高めているようにみえた。やんちゃでいたずらな冒険心と喜びを開放的に突き出したBad Boysの快進撃を聴くような思いである。

 タローもケラスもいい大人で、だけど、そうした少年の愉快さを存分に交わし合う共犯者どうしのまま、といった風情なのである。冒頭に弾かれたドビュッシーのソナタの、ピアノのワイルドなアタックに始まりからして、大胆不敵なものだった。
 続くブラームスの諸作にしても、時代や年代を遡るように並べられていた。ソナタ第2番ヘ長調op.99から、第1番ホ短調op.38で50代前半から30代前半へと若返り、ケラス&タローの編曲によるハンガリー舞曲ではハンガリー人ヴァイオリニスト、レメーニといっしょに演奏してまわった作曲家の20代へと戻っていく。
 
 ブラームスの作品を聴き進むたびに、ちょうどケラスとタローの現在の年齢から、ふたりが出会った頃や、もしかしたらそれ以前の年代へも、ぐんぐん若返っていくような道行きなのである。聴き手の感興も自然とその道連れとなった。
 それは、エルヴィス・コステロの言葉でいう“Brutal Youth”にも近い、荒ぶる若さへの旅であった。タローは嬉々とその道を進み、ケラスもその情熱のさなかを絶妙にかき分けて自在に歌っていった。まさしく、新しい青春をたぐり寄せるようにして。
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