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We Are Liverpool, Champions of England. -シーズン中断を乗り越え、“勝利の凱旋”

We Are Liverpool, Champions of England. -シーズン中断を乗り越え、“勝利の凱旋”

“You'll Never Walk Alone”、そしてアイーダの“勝利の凱旋”
  • 青澤隆明
    2020.06.26
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 プレミア・リーグが再開して2ゲームで、リヴァプールの優勝が決まった。日本では今朝早くのことだ。28勝2分1敗で、勝ち点86。アンフィールドでの再開初戦となるクリスタルパレス戦を4-0で鮮やかに飾ったリヴァプール。選手たちはみなすごい顔をしていたし、そのとおりに冴えて引き締まったゲーム内容で圧勝した。その翌日、2位につけてきたマンチェスター・シティがアウェイでチェルシーに1-2で敗れた結果、プレミア・リーグ初優勝が決定した。7試合を残しての、早々の優勝。このまま勝ち続ければ、史上最高の勝ち点も叶えられる。

 チャンピオンズ・リーグ、クラブ・ワールドカップ、そしてついに手にしたプレミア・リーグのタイトル。30年ぶり19回目のイングランド1部リーグ優勝だが、プレミア・リーグ時代に入ってからは悲願の初優勝である。もちろん、朝から大騒ぎで、でも家のなかだけど、世界中のどこでもYou’ll Never Walk Aloneが歌われている。それは自分の部屋にいても、実感として、わかる。

 ぼくのテレビのうえの壁には、14番と8番がタッチしている写真がずっと貼ってある。もちろん、若きジョーダン・ヘンダーソンとスティーヴン・ジェラードの勇姿だ。あとほんの少しのところで、ヘンダーソンもゲームに出られなくなり、タイトルを手にできなかった。だから、いまリヴァプールのキャプテンとして圧倒的な存在感を放つヘンダーソンにまずは祝福を。その頃のメンバーだと、他にはデヤン・ロヴレン、アダム・ララーナが残っているくらいだ。

 それで、You’ll Never Walk Aloneはぼくのうちでも、朝からなんどもなんども流れていて、その歌はほんとうに感動的な情熱とやさしさをもって沁みてくる。もうひとつ、今シーズンずっと頭に鳴り響いていたのが、ジョーダン・ヘンダーソンのチャントだ。アイーダの「エジプト軍の勝利の凱旋」のファンファーレである。日本代表戦でもおなじみのマーチだ。

 エジプトといえばもちろん、モー・サラーである。ヘンダーソンとの必殺のラインから胸のすくような攻撃が何度もくり出されてきたが、イングランドとエジプトだけではない。代表のキャプテンだけでも、他にセネガル、オランダ、スコットランドの名将がいる。まだ本領発揮とはいかないが南野拓実も期待を集めているし、ネコ・ウィリアムズのようなすごい若手も活躍をみせはじめた。ユルゲン・クロップ監督のもと、大きなファミリーが信頼で結ばれ、夢のような連繋を謳う。

 今シーズンのリヴァプールは圧倒的な強さと称されるし、それを戦績にも示してきたが、その実、かなりしんどいゲームをものにしてきたタフネスこそが光っている。ドローわずか2というのがその証拠で、あと1敗のほかは、すべて勝ちきってきた。そこがこれまでといちばん違う。ホーム、アンフィールドでの輝きは圧巻だ。9、10、11の驚くべき能力と攻守の連動性はもちろんだが、さまざまな選手が局面を打開し、貴重なゴールを決めてきたことも大きい。最新試合はアレクサンダー・アーノルド、サラー、ファビーニョ、マネの4ゴールが見事だったが、大量得点での完勝は決して多くない。クリーンシートもシーズン当初は少なかった。

 社会のサヴァイヴァルも種々の催しの再開も、さまざまな人々のいろいろな職業的、専門的、人道的努力の賜物だ。スポーツもコンサートも、そうしてまたぼくたちに生きる力を返してくれる。ほんとうなら来たる9月には、クロップのリヴァプールFCと同年代に一時代を画した名コンビ、ヴァシリー・ペトレンコのロイヤル・リヴァプール・フィルの輝かしい達成を、日本でも聴けるはずだった。渡航の困難からくる来日中止で聴けなくなってしまったのは、とても残念なことだ。じつを言えば、この春にリヴァプールを詣でて、オーケストラとFCを現地で体験するのが、ぼくの大きな望みだったのだ。

 3か月の苦難の中断期間をはさんで、リーグ優勝を順当に決めたリヴァプールには、心からの称賛しかない。ユルゲン・クロップを求心力にしたここ4年半の蓄積と意志はほんとうに頼もしいが、ヘンダーソンのキャプテンシー、選手たちの個性と一体としての輝き、近い時代で言えばブレンダン・ロジャーズ監督の貢献も見過ごせない。それぞれの顔を思い出すだけで、熱いものが込みあげてくる。さまざまな局面を思い出す。これを書いているとおわらない。なによりも、いいゲームにはいいリズムがある。いかなる妨害、攻撃やピンチにものまれず、チームとしてゲームにリズムが生み出されば、プレイヤーの個性も自在に想像力を発揮できる。音楽だっておんなじだ。
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