20世紀を離れた庭 - 蜂蜜と野生のボレロ [Ritornèllo]

20世紀を離れた庭 - 蜂蜜と野生のボレロ [Ritornèllo]

ラヴェルのボレロから、レヴィ=ストロースが暮らしたブルゴーニュの庭へ。港千尋 著『レヴィ=ストロースの庭』(NTT出版 2008)をふたたび訪ねて。
  • 青澤隆明
    2020.01.07
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 人はなにに駆り立てられるのか--。
 新年の読書を、ル・クレジオの『飢えのリトルネロ』から始めたぼくは、『レヴィ=ストロースの庭』という港千尋の美しい本へと渡っていく。先月箱根で読んで、早くも再訪となる。
 この本もル・クレジオの原著と同じく、レヴィ=ストロース生誕100年を祝う2008年に出版された。それはまた、『神話論理』の日本語版が刊行された年、そして『構造人類学』が出版されてちょうど50年の年でもあった、とその本の「あとがき」が思い出させてくれる。
 その大著をぼくはまだ読んでいないので、『神話論理』の話はできないのだが、ラヴェルのボレロを脳裏に奏でながら、その時代の発熱に、カタストロフへと傾斜する西欧近代文明を思い浮かべながら読むとしたら、いったいどんな響きを帯びてくるのだろうか。
 いずれにしても、ル・クレジオが感じとった暴力への発熱を帯びた響きが、なにかしらレヴィ=ストロースを強く執筆に掻き立てたということだろう。小説家の耳が、ボレロの執拗な反復に、「怒りと飢えの物語」を聞きとろうとしたように。
 そして、いまいちど思い出すのは、レヴィ・ストロースが100歳の年の終わりまで、ちょうど1世紀を超えるところまで生き抜いたことだ。この1世紀に世界に起こったことが、まさしく彼を神話研究を通じた20世紀の知へと駆り立てていたということになる。
  ブルゴーニュの庭に佇む古老の横顔を撮ったモノクロ写真、静かなのだがやはりどこかしら発熱した、生い茂る野生の植物に囲まれた彼の立姿を眺めながら、ぼくはいまこれを綴っている。
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