ヴェルビエ音楽祭特集へ
柴田克彦の音楽日記をイッキ見

<フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 レポート2>


柴田克彦 / 更新日:2021年8月17日


やはりシェフが振る公演は格別だ! 今年のフェスタサマーミューザのベスト3、その 2。<フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 レポート2>



2021年8月4日 広上淳一指揮/京都市交響楽団
2021年8月6日 アンドレア・バッティストーニ指揮/東京フィルハーモニー交響楽団
何れもミューザ川崎シンフォニーホール

 高関健&東京シティ・フィルに続いて、フェスタサマーミューザKAWASAKI2021のベスト3の残る2つを。

 まずは広上&京都市響。当音楽祭には2017年から地方都市オーケストラが順次参加しており、今年はオーケストラ・アンサンブル金沢と京都市交響楽団が出演した。中でも広上&京響は注目の公演だ。当コンビは日本屈指との呼び声が高く、しかも2008年からシェフを務める京響飛躍の立役者・広上が2022年3月に退任するというから、今回は集大成的パフォーマンスに首都圏で接する貴重な機会となる。

 演奏については別途記した(毎日新聞クラシックナビ)ので、ここでは簡単に触れるが、期待以上であったことは確か。特にマイルドで豊潤なサウンドが素晴らしく、京響が在京の強豪とは異なる個性を持った日本最上級のオーケストラであることを実感させられた。演目は、ブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲と、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。ブラームスは優美な好演で、ヴァイオリンの黒川侑とチェロの佐藤晴真が呼吸も絶妙な瑞々しいソロで魅了した。ベートーヴェンはモダン・オケの良さを生かしたしなやかでふくよかな表現。攻撃型ではないが、個人的にはいつになく魅力的な「英雄」だった。

 そしてバッティストーニ&東京フィル。バッティストーニは2016年から首席指揮者を務めており、彼が振ると必ずや東京フィルに生気と躍動感と歌が漲る。今回はその持ち味を発揮するに相応しい「イタリア・プロ」が組まれているので、当音楽祭の中でも楽しみにしていた公演だ。

 これまた期待通り、いや期待以上の快演が展開された。1曲目はヴェルディの歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲。カンタービレと力感が共生した、まさしくイタリア・オペラの世界だ。おつぎのレスピーギの組曲「シバの女王ベルキス」は目眩くスペクタクル。静かな曲の神秘的な美感もさることながら、激しい2曲の活力とダイナミズムは圧巻の一語に尽きる。なお、あえて用いられた日本の太鼓も不思議な異国感を醸し出していた。後半最初はニーノ・ロータのハープ協奏曲。この曲、CDで聴くと今ひとつ物足りなさを感じるのだが、今回の演奏は全く違っていて、独特の柔らかい肌触りが魅力的な美しい作品であることに気付かされた。もちろん明瞭かつ美麗な吉野直子の妙技に拠るところ大だが、バックの精妙なトーンも大いに貢献。これは思わぬ収穫だった。そしてレスピーギの「ローマの松」は凄絶なクライマックス。あらゆる音に生気が宿り、動的でカラフルなことこの上ない。「アッピア街道の松」は当然のごとく盛り上がり、最後はホールを揺るがす大サウンドが圧倒的な興奮をもたらした。ちなみに、最後の一歩手前で大音響に達したのでこの先どうなるのか?と心配になったが、驚くことにもう一段音量を上げて終結した。さすがバッティストーニ、その辺りの設計に抜かりはない。本公演は極めてエキサイティングであり、こうした有無を言わせぬ迫力は生オーケストラの大きな醍醐味だ。正直なところ「この演奏に細かい注文を付けるやつは、オーケストラなど聴かんでよろし」と言いたいほどだった。

 高関健&東京シティ・フィルを含めた3公演は、三者三様の名演。だからこそオーケストラ音楽は愉しく、フェスタサマーミューザも面白い。

<フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 レポート1>


柴田克彦 / 更新日:2021年8月11日


やはりシェフが振る公演は格別だ! 今年のフェスタサマーミューザのベスト3、まずはその1。 <フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 レポート1>



2021年 7月31日 高関健指揮/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
ミューザ川崎シンフォニーホール


 今年も「フェスタサマーミューザKAWASAKI」が行われ、19日間20公演が無事終了した。コンサートの開催状況は昨年よりも良化したとはいえ、感染者が激増している中で、各所から多様な演奏家が集うこうした音楽祭を完遂できたのは、ある意味昨年以上の快挙。関係者の努力に心から拍手を送りたい。

 さて本音楽祭の目玉は、ミューザ川崎におけるプロ・オーケストラの競演。今年は11団体による12の公演が行われた。この内11公演を聴いたので、ここでベスト3を挙げておきたい。

 昨年末から続いたヴァイグレ&読売日響の名演を機に、音楽監督や常任指揮者といったシェフの重要性を再認識させられている。やはり意志の通じ方が客演とはひと味違い、演奏の密度やまとまりに別格感が生まれる。ゆえに今年のフェスタサマーミューザでも、事前記事や座談会等でシェフが振る公演を推奨してきた。それに該当する4公演の内、初日のノット&東響はやむなき事情で足を運べなかったが、必然か偶然かベスト3は残る3公演になった。

 最初は高関&シティ・フィル。当公演は「ほぼ日刊サマーミューザ」にレポートを書いたので、それと重複するものの、再度記しておかずにはおれない。

 演目はスメタナの連作交響詩「わが祖国」全曲。2015年高関が常任指揮者に就任後のシティ・フィルの品質向上は目覚ましく、特に最近は濃密な快演が続いている。しかも「わが祖国」は、同曲への思い入れが強い高関が節目で取り上げてきた勝負曲だ。就任記念定期以来久々の演奏となる今回は、コンビ6年の成果を映す名演の予感十分だし、この曲ならば2017年フルシャ&都響によるフェスタサマーミューザ史上屈指の名演の再来も頭をよぎる。

 かように期待値のハードルを上げ切った状態で接した本公演だったが、そこはさすが絶好調のコンビ。誠実でこまやかな名演奏を聴かせてくれた。第1曲「ヴィシェフラド」から精緻にしてナチュラルなドラマが展開される。第2曲「ヴルタヴァ(モルダウ)」は、「月の光と妖精の舞い」の夢幻的な美しさと、「急流」の稀に見る激しさとの落差が出色。他の場面も実に精妙で、これほど誠意ある同曲の演奏は初めて聴いたと言っても過言ではない。以下各曲も同様に進行。音楽に即して劇的性格を増しながら緻密さを保ったまま大団円を迎えた。

 これは感動強要型の熱演とは真逆の、隅々まで目配りが行き届いたしなやかで温かな演奏だ。十分に熱く高揚するのだが、全てが音楽的感興に沿っている。そこが何より素晴らしい。シティ・フィルも全力投球で音楽表現に尽くし、高関の指示にも的確かつ俊敏に応える。まさにコンビ6年の成果を示す演奏であり、「心のこもったいい音楽を聴いた」と真に思える感銘深い公演だった。

 フルシャ&都響とはまた違った感触を持つ「わが祖国」の名演が、フェスタサマーミューザの演奏史に加わったと言っていい。

佳きコンサートが多かった11~12月、中でも印象深い公演を備忘録的に記しておきたい。<その3 12月の公演>


柴田克彦 / 更新日:2021年5月11日


⚫︎井上道義指揮/NHK交響楽団




2020年12月6日 NHKホール
もはや2021年5月も半ば。2月末に11月後半分を書いてから、果てしなき中断を経て、ようやく12月分に手をつけた。日記としてはもうどうしようもない状態だが、ともかく年内の分を手短に記しておきたい。
まずは井上道義がN響を指揮して十八番のショスタコーヴィチと伊福部昭の作品を披露した公演。前半のショスタコーヴィチの交響曲第1番は、冒頭から若き天才の才気が表現され、リズムもフレーズも的確に運ばれる。第3楽章の抒情味や第4楽章のダイナミクスも見事で、曲の特質がストレートに表出された快演と相なった。後半は伊福部昭の作品。最初のピアノと管弦楽のための「リトミカ・オスティナータ」は、伊福部お得意の反復の中での変化が精緻に表わされ、ピアノの松田華音も管弦楽と絶妙に一体化ながら感情を盛り上げていく。おつぎの「日本狂詩曲」は凄絶そのもの。独特のリズムがもたらす快感に加えて、精妙さを失わない演奏がより強い説得力を生み出した。両曲とも最後は圧倒的な興奮・狂乱状態で、これぞ伊福部!の感しきり。
以下、きちんとメモをとっておらず、時間が経っての感想執筆は至難なのだが、印象的だったので記録を残しておく。
⚫︎読売日本交響楽団 第637回名曲シリーズ
セバスティアン・ヴァイグレ指揮 ベートーヴェン「第九」
2020年12月18日 サントリーホール
これは日本の「年末第九」ではまず聴けないタイプの演奏。弦楽器は10-8-6-5-4(だったと思う)の編成なのだが、それを逆手にとったかのように、無理のない響きでじっくりと音楽が進行していく。中欧・東欧風の柔らかな質感で、大言壮語せずに奏でられるのは、「歓喜の絶叫交響曲」ではなく、交響曲第8番の次に書かれた「古典派の交響曲第9番」だ。ヴァイグレの個性と特長が生かされたこの演奏は、じんわりと心に染みる。“感動の強圧「第九」”に辟易気味の当方には、すこぶるフィットする表現だ。ヴァイグレが来てくれて良かったと思うと同時に、日本のオーケストラにおける外国人指揮者の必要性を改めて痛感した。
⚫︎都響スペシャル2020
大野和士指揮/東京都交響楽団 チャイコフスキー「くるみ割り人形」
2020年12月25日 東京文化会館
2020年末の都響は「第九」をやめて「くるみ割り人形」を取り上げた。大規模合唱が困難なためとはいえ、この発想がまず素晴らしい。そして、劇場人・大野の巧みな手腕と高機能で豊麗な都響の特性がフルに発揮された演奏も見事だった。大野は各場面を鮮やかに描き分け、それぞれの魅力を存分に引き出していく。それに応えて都響も、カラフルかつ精緻で生気に満ちた好演を展開。佳き音楽の連続に終始引き込まれたまま、あっという間に終結へ至る。個人的にはあまり使いたくない言葉だが、これはまさに“感動的だった”。数多のバレエ音楽、いやチャイコフスキーの三大バレエの中でも、音楽を聴くだけなら「くるみ割り人形」が断然いい。わかっていたこととはいえ、こうした名演を聴くとそれを心底実感する。 
 なお、都民劇場の「庄司紗矢香&ヴィキングル・オラフソン」(2020年12月21日 東京文化会館)も、オラフソンに触発された庄司の快奏が光る刺激的なデュオ公演だった。
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